税率の低い海外に投資して節税しよう!は危険?国際税務の落とし穴

海外口座,投資

【海外を利用した節税】

少し前にテレビや新聞などでも話題になりましたが、タックスヘイブンという言葉を聞いたことがあるでしょうか。

ざっくりいうと、タックスヘイブンとは海外を利用した節税です。税率の低い海外に進出して税金を安く抑えようする行為です。

以前は盛んに行われていた時代もありましたが、現在ではそう簡単にこうした海外を利用した節税を行うことは出来なくなってきています。

いわゆる国際税務と呼ばれるものですが、国際的に税務について取り決めがなされているためこうした節税ならぬ課税回避が出来ないようになっています。

では節税目的で海外進出するのでなければ気にしなければよいのかというとそうでもありません。

実は国際税務の落とし穴に陥り、気づかないうちに課税対象になってしまうこともあります。気づかず無申告で脱税を疑われることも・・・?

海外との取引が多い事業者は注意が必要ですので、基本的な事項をおさらいしておきましょう。

 

【国際税務の問題点とは?】

国際税務が特に重要視されるようになったのは割と最近ですが、以前からその問題は指摘されその都度様々な税務の改正が行われてきました。

ではなぜ国際税務が問題視されるのでしょうか。

それは二重課税の排除課税回避を防ぐためです。

二重課税の排除とは、例えば日本の会社の支店が海外にある場合、日本の会社の一部として日本で課税がされ、さらに海外の現地でも支店について課税がされることがあります。

日本と海外で二重に課税がなされるため、ほとんど利益が残りません。

これでは日本企業の海外進出を阻害してしまいます。

こうした二重課税を防ぐために、二重課税にならないような制度が設けられています。

二重課税の排除はどちらかというと納税者のためのものですね。

 

一方課税回避とは、例えば日本の会社が税率の低い外国に子会社を作り、利益を全て子会社につけるように親子会社間で取引をすれば、低い税率で済むようになり課税を逃れることができます。

これはもともと日本の法人税率が高いことが主な要因でした。先進諸外国ですら20~30%が多いなか、日本の実効税率は40%ほどありました。

先進国ではありませんが、法人税率0%といった国もあったりします。

そのためより低い税率を求めて海外進出が増え、課税を逃れようとする企業が多かったのです。この問題は日本に限ったわけではなく全世界的に問題視されています。

課税回避を防ぐのは税金を徴収する国側の理由ですね。

 

こうした二重課税の排除と課税回避を防ぐといった2つの理由から、国際税務は必要なのです。

 

【どういった制度があるのか?】

二重課税の排除と課税回避を防ぐためにどういった制度が設けられているのでしょうか。

まず二重課税の排除ですが、代表的なものとして以下の制度があります。

  • 外国税額控除
  • 国外所得免除
  • 租税条約

 

そして、課税回避を防ぐためにですが、代表的なものとして以下の制度があります。

  • 源泉所得税
  • 過小資本税制
  • タックスヘイブン税制
  • 移転価格税制

 

ではそれぞれの制度がどんなものなのか以下で詳しくみていきましょう。

 

 

【外国税額控除】

外国税額控除とは、外国で支払った税金を日本の税金から控除することが出来る制度です。

日本の会社で海外に支店がある場合が代表例です。

海外にある支店が現地で納税した金額を、日本の税務申告で算定された支払うべき税金から控除することが出来ます。

この制度では二重課税の排除は出来ますが、結局は日本の課税額をベースに支払い金額の総額が決定されることになるため、海外支店による節税効果は薄くなります。

注意点としては、外国税額控除が必ず適用できるわけではないことです。

例えば、海外支店で税金を納めていたとしても、日本の本店が赤字で税金がゼロであれば、控除しようにも控除する税金が存在せず外国税額控除が出来ません。

なお海外投資は海外でも日本でも両方で申告が必要です。うっかり申告漏れてしていたといった事態に陥らないように注意しましょう。

 

 

【国外所得免除】

国外所得免除とは、国外の所得には課税をしないということです。

日本と海外で両方で課税するために二重課税が起きてしまうため、日本は日本の所得に課税し、海外は海外の所得に課税するように住み分けをしようということです。

代表的なものは外国子会社配当金益金不算入制度です。

もともと配当金には税金が課されていました。

しかし、海外子会社から日本の親会社への単なる送金の意味合いを持つ配当金についてまで税金を課してしまうと、海外で納税してさらに日本でも課税されるという二重課税が起きてしまっていました。

そのため平成21年より外国子会社からの配当金はその95%が非課税となりました。5%部分にしか税金が課されないため、ほとんど課税されることなく日本に送金が可能になりました。

これは海外進出によって海外に留保され始めた利益を日本国内に還元する目的で創設された制度なのですが、皮肉なことにさらに海外進出を後押ししてしまったようにも思います。

この制度が出来たため、状況によって海外進出を子会社形式にするか支店形式にするかで使い分けることが必要になりました。

例えば海外現地がしばらく赤字予定の場合、支店形式にすることで海外の赤字を日本の本社に取り込むことで損益を合算することが出来ます。

一方海外現地が黒字予定の場合、子会社形式にすることでその利益を子会社配当金益金不算入制度によって95%非課税で日本に還元することが出来ます。

 

 

【租税条約】

租税条約とは、国家間での税金に対する特別な取り決めです。

基本的には二国間で条約が締結され、日本では現在126か国ほどと締結しているようです。

その内容は、課税の範囲や税率の軽減などから、情報交換・紛争時の解決方法なども定められています。

例えば、通常会社からの配当金には源泉所得税が発生するのですが、日米間の租税条約では日米間の子会社配当金は源泉所得税がゼロになるといった取り決めがあります。

これにより前述の外国子会社配当金益金不算入の制度も、源泉所得税がゼロになっているからこそ95%非課税が生きてくるわけですね。

そして基本的には租税条約が国内法よりも優先されます。

さらに、租税条約は納税者が有利になる取り決めが多くあります。租税条約の内容を知っていなければ、支払う必要のない税金を支払ってしまっていることもあるのです。

ですので国際税務については両国の税制だけではなく、租税条約も把握していなければなりません。

また、租税条約では情報交換も内容に含まれているとお伝えしました。

そのなかで、今後は口座情報も交換することになっています。

海外口座を使えば何をやっていても日本の税務署からはバレないと考えてしまう方もいるかもしれませんが、今では海外口座情報も税務署は把握しています。

海外口座を利用した脱税まがいの行為はすぐにバレてしまうので絶対にやめましょう。

 

 

【源泉所得税】

所得税は一年間の所得によって課税されますが、支払いを行う際に支払い側が税金を徴収することになっています。

これを源泉徴収(源泉所得税)といって、支払った側が徴収しそれをまとめて納税することになります。

これは普段からなじみのある制度かと思いますが、国際税務ではより重要な意味を持ちます。

国際税務において源泉徴収がされなければ、課税がされないまま国外に所得が持ち出されてしまう危険性があるためです。

源泉徴収は義務ですので、うっかり徴収し忘れたということないように気を付けましょう。

国際税務の場面で主に源泉徴収が発生するのは以下の状況です。

  • 国外への給料の支払い
  • 国外への配当金の支払い
  • 国外への利息の支払い
  • 国外への利益分配の支払い

 

また、一つ注意しなければならないのは社宅を借りている場合です。

日本の大家さんから借りている社宅であれば問題はないのですが、外国の大家さんから社宅を借りている場合には、家賃の支払い時に源泉徴収をしなくてはいけません。

不動産投資もグローバル化してきた最近では、いつの間にか大家さんが外国人に変わっている場合もあり、気づかずに源泉徴収漏れが起きてしまうことがあるので注意しましょう。

 

 

【過小資本税制】

過小資本税制とは、支払い利息や保証料などの損金算入を一定額に制限する制度です。損金算入を制限するというのは、簡単に言えば経費にいれられないということです。

原則として資本金の3倍までの借入についてしか損金算入が認められません。

子会社を設立する際に小さい資本金で設立し、実質的な資本は親会社からの借入金で済ます場合、多額の借入金を計上することで支払い利息も多額に発生し、支払い利息という経費として課税されずに利益の移動が行うことができてしまうため制限がかけられています。

親会社が海外にある日本の子会社が主にこの制限の対象になりますが、あまり日本の中小企業では該当するケースは少ないでしょう。

 

 

【タックスヘイブン税制】

タックスヘイブンは最近耳にする機会が増えたように思います。

タックスヘイブンとは、タックスは英語で「tax(税)、ヘイブンは英語で「haven(回避地)」となります。

つまり租税回避地という意味です。ヘイブンは天国という意味の「heaven」ではありません。

タックスヘイブン税制とはつまり課税回避行為を阻止するための制度ということです。

 

世界的に盛んに行われていた課税回避行為の一つが、税率の低い外国に子会社を設立し、利益を子会社に移転することで税金を安くしようという行為です。

現地での活動実態がある子会社ならまだよいのですが、実態のないペーパーカンパニーを利用して行われていることもあり、それはもはや脱税です。

特にケイマン諸島や香港など、税率がゼロの地域がターゲットにされていました。

 

こうした不当な課税逃れを阻止するためにタックスヘイブン税制では、外国子会社の所得を親会社に取り込んで税金を計算し直すということをしています。

 

税率の安い海外に利益を移しても日本で課税されることになるためこうした行為はできなくなっています。

 

対象となる子会社は税率に着目すると判断しやすいです。

日本とそれほど税率に差がない、税率30%以上の国にある子会社はタックスヘイブン税制での合算対象になっていません。

日本より税率がやや低い、税率20%以上30%未満の国にある子会社では、ペーパーカンパニーだったりブラックリスト国である場合にタックスヘイブン税制での合算対象になります。

日本より税率が非常に低い、税率20%未満の国にある子会社は合算対象になる可能性が高いので要注意です。

 

税率の低い国に子会社がある場合には対象になってないかよく確認して注意しましょう。

 

なお非常に税率の低い国に子会社がある場合で、その子会社が経済的実体もありきちんと会社としての活動をしている場合でも注意しておくべきことがあります。

 

それは、タックスヘイブン税制の対象になると、現地子会社では利益を出していても税金を納めなくて済み、日本の親会社が子会社の分まで納税するということになる点です。

実はこの場合、実質的な利益、つまり現金は子会社が持っているにも関わらず、現金を受け取っていない親会社が税金を納めなくてはならないということが起こりうるのです。

日本の親会社の資金繰りに重大な影響を及ぼす可能性があるので注意しましょう。

 

 

【移転価格税制】

移転価格税制は外国にある子会社との取引を通常の取引価格で行われたとみなして所得を計算する制度です。

こちらもタックスヘイブン税制と似たような趣旨で創設されていまして、税率の低い外国に不当に利益を移すことを防止しています。

例えば、日本の親会社で製造した製品を税率の低い海外の子会社に送り販売させる場合、日本の親会社に利益が出ないような形で子会社に製品を送っていれば、日本では所得がゼロとなり全ての利益を税率の低い海外の子会社のものにすることが出来ます。

この場合、日本では所得がないため税金が発生せず、海外も税率が低いためほとんど税金が発生せず、課税逃れができてしまいます。

 

そこで、日本から子会社に製品を送る際にも一般的な適正価格で販売させることで日本の親会社にも適切な利益をもたらしきちんと納税してもらうことを目的とした制度です。

 

つまり国際税務では親子会社間での販売において自由に価格を決めることが出来ず、税務上認められる客観的な価格を提示する必要があります。

 

実はこの価格を決めることがとても大変だったりします。

価格の決定方法は様々ありますが、代表的な二つをご紹介します。

 

  • 独立価格比準法(CUP法)

子会社以外にも独立した第三者にも同じものを販売している場合、その価格を参考にすることが出来ます。

確かに第三者が納得している価格であれば一般的な取引価格であるといえそうですよね。

この独立価格比準法が利用できる場合には簡単なのですが、実際には利用できる場面はそう多くありません。

 

  • 取引単位営業利益法(TNMM

実際はこちらを採用することが多いようです。

取引単位営業利益法とは目標営業利益を算定して販売価格を調整する方法です。

同業他社の営業利益を参考にすることで同様に価格を決定する方法で、例えば同業他社が営業利益率5%ならば同様に営業利益率5%になるよう価格を調整するといった具合です。

 

こうして設定した価格は関係国に事前に確認をとることもできます。

事前確認制度(APA)という制度なのですが、これを利用すれば価格が認められたことになりますので安心です。

しかしどちらかというとAPAは大企業向けの制度ですので、中小企業ではそこまでやることは少ないかもしれません。

 

価格が不安な場合には、税務調査対策としては価格決定の根拠をきちんと文書化しておくとよいでしょう。

そしてその前にまずは自社の取引が移転価格税制に該当しないかを把握することが大切です。

 

 

【まとめ】

いかがでしたか。

国際税務の概要をお伝えした形ですが、海外取引を行っている場合にはいろいろと注意しなければならないことが多いですね。

それとともに海外を利用した安易な節税はあまり意味がないということもお伝え出来たかと思います。

国際税務は広範な知識を要求されるため、該当するかもしれないと不安になったら税理士に相談してみるとをオススメします。